【scope】



父を殺さなければいけないと思った翌日、私はずいぶん遅れてきた生理によって腹痛に苦しんでいた。
二ヶ月ほど前、行きずりの男がゴムをつけるのを嫌がって、つけないなら入れるなって言ったのに、途中で抜いた時にこっそり外したらしく、中で出されはしなかったけど、なんとなく不安だった。
顔は悪くなかった。だから寝た。でも会話のセンスは最悪だった。
私が好きでもない男と寝るのは、復讐の為だ。
何に対して復讐してるのかはよくわからない。
言語化したら酷く陳腐なその感情を持て余し、私はどうでもいい男と非生産的なセックスに励んだ。
どうでいい男と寝る事で自分を貶めて傷つけなければいけないような気がした。
もう、手首を切るほど若くはない。
私はアスピリンをいつもの倍の量飲んでベッドに横になる。
複雑な気分だ。
生理が来てほっとしたような、堕胎で更に自分を傷つける機会を失って残念なような。
しばらく眠った後、タンポンが膣の中で飽和寸前になっているのに気づき、のろのろとトイレに立つ。
ずるりと血を吸って膨らんだタンポンを引き出すと、吸い切れなかった塊が一緒に出てきて便器に落ちた。
経血に混じった胎盤の残骸はラズベリージャムみたいにどろりと赤黒く、白い便器の上に垂れたそれは恨みがましくゆっくりと赤い軌跡を描きながら斜面を滑り落ち、たまっていた水に溶けた。



 おわり

2004/9