stray



縛めを解かれた途端、僕は言い様もない不安に襲われる。
「もう帰る時間だ」
僕の首輪をテーブルの上に置き、彼はまだ床に跪いている僕を見下ろした。
「いつまで尻尾をつけているんだ? いつまでその格好でいるつもりだ?」
彼は僕のお尻にささった鞭を指で弾く。堅い持ち手の方を入れられているので、弾かれた衝撃で僕は小さく呻き声を出してしまう。禁じられていたのに。
「いい加減にしろ。言い付けをわざと破ったからと言って、これ以上お仕置きはしてあげないよ」
違う。違うのに。
彼は本気で苛々し始めていた。さっきまでの遊び半分の時ではなく、本当に侮辱する目で僕を見下ろしている。
僕はその視線に身体の中が熱くなる。薄い下着を持ち上げて勃起しかけている僕のペニスを見て、彼の苛々は頂点に達したらしい。
「お前は本当に厭らしい犬だ」
彼は僕の腹を蹴り、ペニスを踏み付ける。じりじりと力を加えられて、僕は目の前で光が明滅する様な錯覚を見る。
裸足の指先で、彼は器用に下着の上から僕のペニスを撫でる。小さな下着から先端がはみだしてしまいそうだ。
「………許してくれ」
彼はふいに足を離し、僕の傍に座り込んだ。倒れたままの僕を座らせ、髪を撫でてくれる。
「俺は、週に一度しかここに来れないんだよ。俺は、お前の為に家族を捨てる事は出来ない」
わかってる、そんな事。
彼はサディストの仮面を脱いで、優しくて残酷なキスをする。
僕はまた、首輪もしてもらえないままで、この部屋で主人の帰りを待つのだ。

2002.05.30